交通事故の際に頭部に打撃を受けることで、高次脳機能障害が残る場合があります。症状の程度に応じて、後遺障害等級が認定されます。
高次脳機能障害はなぜ起こるのか
頭部に打撃を受けると、打撃力が脳に不均一にかかり、脳がゆがみます。脳がゆがむと、脳の内部の神経線維が広範囲にわたって、プチプチと切れてしまいます。びまん性軸索損傷という状態です。脳内での情報伝達がうまくいかなくなり、高次脳機能障害の症状が出るのです。
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高次脳機能障害の代表的な症状
高次脳機能障害の症状として、「知的障害」や「性格・人格の変化」が起こります。
知的障害(知能の低下)
知的能力が全般的にダメージを受けます。具体的には下記のような症状が出ます。
記憶の障害
新しいことをおぼえる能力が低下するので、生活環境の変化に十分に対応することが難しくなります。予定や約束をおぼえていられなくなります。ひどくなると、今見聞きしたことすら記憶することができないので、人の助けがないと、身の回りのこともできなくなります。
注意力の低下
気が散りやすく、一つのことに集中できなくなり、集中できたとしても集中を持続できません。仕事でもミスが増えます。些細な物音などがあったり、他人が近くにいると作業ができなくなりします。
遂行機能障害
判断力が落ち、計画を立てて行動することができなくなります。ひどくなると、ごく単純な行動しかできなくなります。
病識の欠如
自分の症状について認識できなくなります。
性格・人格の変化
「人が変わった」という状態です。わがままな子供のような性格になります。些細なことで怒鳴ったり、他者に攻撃的になります。ひどい場合には、家族や職場の人たちと次々にトラブルを起こし、孤立する場合があります。知的障害以上に生活への支障は深刻です。
脱抑制
自分の欲望や感情をコントロールできなくなります。些細なことで怒ったり、浪費をするようになります。
攻撃性
言動が攻撃的になり、ひどい時には暴力をふるうこともあります。
自発性の低下
自分から何かをしようという意欲が低下し、周囲にも関心を示さなくなります。
依存的になる
責任感が無くなり、過度に依存的になります。
高次脳機能障害が認められるための要件
高次脳機能障害が認められるためには、下記の3つの要件が認められることが必要と言われてきました。3つすべてがそろっていなければ絶対にダメというわけではありませんが、いずれかが欠けると、裁判で争うことも検討しなければなりません。
要件その1 脳外傷の画像所見
高次脳機能障害は、脳内の神経線維が広範囲にわたってプチプチと切れる、びまん性軸索損傷により起こります。しかし、神経線維には血液が通っておらず、CTには映りにくいです。したがって、脳外傷の画像所見がないことがあります。そのため、他の方法で画像所見を得る必要が生じます。
慢性期にMRIが撮られていれば、事故直後のCT画像と比較し、脳内の空洞部分(=脳室)が拡大していないかを確認できます。損傷した神経線維は脳内で間引かれるため、事故から数カ月すると脳全体がやせて脳内の空洞部分が大きくなるのです。これが、高次脳機能障害の証拠の一つになります。
また、脳外傷によって神経線維そのものが出血することはありませんが、神経断裂と同時に脳内の特定の部分が点状に出血した痕跡が残ることがあります。高次脳機能障害の証拠の一つになります。
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要件その2 一定期間の意識障害の継続
交通事故後、一定期間、意識障害が継続していたことが必要とされています。具体的には、「昏睡状態、または半昏睡状態が6時間以上」、あるいは、「健忘、軽度の意識障害が1週間以上」続くことが必要とされています。この要件は、脳外傷の画像所見よりも重要であると言われます。意識障害の継続がない場合には、高次脳機能障害は容易には認められないので、裁判で争う必要が高いのです。
困ったことに、意識障害があったのに記録に残っていないために後遺障害と認められないケースもありえます。頭部外傷が重症であれば、医療機関は、細心の注意を払って意識障害が発生しているかどうかを観察し、意識レベルをチェックし、記録も残します。したがって、意識障害が見逃される可能性は少ないでしょう。ただし、外傷が比較的軽く、意識障害も健忘程度にとどまる場合には、医療機関も見過してしまう場合があります。そうなると、後遺障害の認定で不利になります。したがって、物忘れがあったり、会話のつじつまが合わないなど、おかしな様子がありましたら、ご家族や付き添いの方が、そういった様子を具体的に記載して、残しておく必要があります。また、様子がおかしいことを医師にも伝える必要があります。
交通事故後の意識障害の有無については、医師によって「頭部外傷後の意識障害についての所見」という書類が作られます。
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要件その3 高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害が認められるためには、知的障害や性格・人格の変化などの症状が生じていることが必要です。ただし、これらの症状は気づかれにくいのです。知的障害があっても、過去の経験と慣れで、今まで通りの生活を何とか送れることがあります。また、性格や人格が変化しても、まさか交通事故の後遺症だとは思わない場合が多いです。このような高次脳機能障害の症状が出ていても、気付かれないことがあります。
後日、後遺障害を認定するうえで、被害者の症状を把握するために役立つ2つの書面が作られます。一つは医師が作成する「神経系統の障害に関する医学的意見」、もう一つは、家族など身近な人が作成する「日常生活状況報告」です。
「神経系統の障害に関する医学的意見」は専門家である医師が作成するという点で一定の信用性がありますが、「日常生活状況報告」の方が具体的で詳細であることや、事故に遭う前の生活状況についても記載します。この二つの書類がセットになって、被害者の症状を的確に把握できるのです。
ただ、これらの書類には、定型的なフォーマット故の限界もあります。具体的な被害者の様子や会話、出来事についても、記録を残しておくことが大切です。他者から見たときに、臨場感や具体性のある記述が、定型的な書式では感じられなかった説得力を持つこともあります。
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高次脳機能障害が残った場合には後遺障害等級は何級になるのか
交通事故によって生じた高次脳機能障害が残った場合、残った症状に応じて、下記のように等級が認定されます。
1級
知的能力に高度の障害が残り、身の回りのことをするために、全面的に人の助けが必要である。
2級
日常生活は自宅内に限られ、身の回りのことをする際に、家族の声かけや見守りが必要である。
3級
記憶力や注意力、新しいことを学ぶ能力、自分の障害についての理解、他者とスムーズな人間関係を保つ能力などに大きな障害がある。そのため、一般的な職場で働くことが難しい。
5級
単純な作業はできるが、新しいことを学んだり環境の変化への対応ができず、仕事を続けるためには、職場の理解や助けが欠かせない。
7級
作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのため、一般人と同じレベルでの作業はできない。
9級
職場で問題に直面した際に解決する能力に障害が残っており、作業効率が悪かったり、作業を持続する力にも問題が残っている。
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