示談交渉の悩み
交通事故に遭うと、相手方が任意保険に未加入などの場合を除いて、通常は、相手方の保険会社の担当者から連絡があります。以後、その担当者とやり取りをすることになります。相手方保険会社の担当者は、入院や通院の費用の立替えや、必要な手続きの案内をしてくれます。賠償についても保険会社の担当者との話し合いの中で解決を図ることになります。
しかし、保険会社の担当者には当たりはずれがあります。人当たりがよくこちらの話を聞いてくれる人もいますが、被害者に対して横柄で、敵対心を持っているとしか思えないような感じの悪い人もいます。相手方保険会社の従業員のうち、どのような人が自分の担当者になるか、運によって左右されるのです。
はずれの担当者に当たってしまうと電話をするだけでも強いストレスになります。まして、もう少し治療をしたいなどといった、希望を伝えることも苦痛になります。
交通事故に遭っただけでも災難なのに、加害者側保険会社からハラスメントまがいの対応をされるとなると、やり切れません。
運よく、感じのいい担当者に当たった場合には、こういったストレスとは無縁となります。そういった担当者と、気持ちよく話し合いをして解決ができれば、それ以上のことはありません。
ただ、どんなにいい担当者であっても、保険会社内部でのルールに従わなければなりません。提示される賠償額は、裁判所の基準よりも低額な、保険会社内部の基準に従ったものになります。
相手方保険会社の担当者が、いくら感じが良い人であっても、特に、怪我の程度が大きく入通院の日数が多い場合、後遺障害が残っている場合については、担当者の提示額をそのまま受け入れてしまうと、妥当な賠償額を受け取ることができなくなります。
示談交渉では妥当な解決が難しいケースもある
過失の割合や後遺障害について激しい争いがある場合には、事実をはっきりさせる必要があります。
また、高次脳機能障害を主張する場合も、適切な後遺障害等級を認定してもらうためには、裁判に頼るしかないことが多いです。
こういった場合であっても何としても話し合いによって解決しようとすると、大幅に譲歩せざるを得なくなってしまいます。早期に訴訟を起こすことを検討しなければなりません。
そのようなケースに当たらない場合には、いきなり裁判を起こすのではなく、まずは、示談交渉を試みます。
示談交渉に弁護士が入るとどうなるのか
弁護士を入れるまでは、被害者ご本人が相手方の保険会社の担当者とやり取りをしますが、弁護士を入れると、弁護士が相手方とやり取りをすることになります。
したがって、以後、被害者ご本人がやり取りをする相手は、保険会社から弁護士へと代わります。
依頼者と弁護士とのやり取り
弁護士は依頼者から、交通事故の状況やその後の経過について聞きます。
弁護士から依頼者へは、有利な事情、不利な事情を踏まえたうえで、見通しを伝え、法的なアドバイスをします。
また、どのような方針で進めていくのかについて希望を聞きします。
弁護士は相手方との交渉の経緯について、依頼者に報告します。依頼者も、事故後の症状等について、弁護士に連絡をします。お互い、情報を共有し合います。
弁護士に任せるメリット
豊富な知識を有する保険会社に対して、事故の被害者は法律や保険実務などに詳しくないことが多いでしょう。そのような被害者が不利にならないように交渉をしていくのは大変です。弁護士に交渉を委ねることで、自ら交渉する場合よりも、有利に交渉を進めることができます。
また、相手方保険会社と直接やり取りしないで済むようになります。煩わしいストレスから解放されるので、リハビリや治療、仕事、家事に専念することができます。
これらの理由以外にも、弁護士を入れて交渉する大きなメリットがあります。
ご存知の方も多いかと思いますが、保険会社は、交渉相手が被害者本人である場合と、弁護士が入っている場合とで、賠償金の提示額に差を付けます。
弁護士が入っていない場合は、弁護士が入っている場合よりも、提示額が低くなります。
保険会社はなぜそのようなことをするのでしょうか。被害者の中には、「弁護士を入れて大ごとにするぐらいなら賠償額は少なくてもいい」と考える人が多いからです。そういった被害者の心理を知っているからこそ、保険会社は弁護士を入れない場合には、提示額を低くします。
もっとも、「弁護士との相性」という見過ごせない問題があります。弁護士を入れることで、相手と直接交渉するストレスから解放されると思っていたのに、弁護士との相性が悪く、弁護士とやり取りをすること自体がストレスになってしまったり、弁護士とまともに連絡が取れずにイライラするようでは、本末転倒です。
最近の弁護士には真面目な優等生タイプが増えてきました。しかし、もともと、弁護士業界は、個性の強い人が多いです。交通事故の解決方針も、弁護士によって異なります。そのためにも、実際に弁護士に会って相性を確認しておくことは大事です。事務所の雰囲気なども大切です。現実に弁護士と話をすることで、法律事務所のホームページを見ているだけでは分からないことがたくさんわかります。
最初の法律相談の段階で違和感があるようだったら、その弁護士とは相性が良くない可能性が高いです。そのような直感は結構当たるものです。
相手方保険会社の担当者は、自分自身で選ぶことはできません。しかし、弁護士は自分で実際に会って話をしてみて、相性を確かめることができるのです。
費用対効果(弁護士特約の有無)
示談交渉に弁護士を入れるべきかどうかについて、費用対効果という視点も重要です。通院期間が短く、完治したような場合には、弁護士を入れるメリットよりも、コストが上回ってしまいます。相手方の保険会社の担当者とはこれ以上話したくない場合でも、弁護士を入れることをあきらめざるを得ない場合も出てきます。
もっとも、弁護士特約が利用できれば、被害者が弁護士に支払うコストのことは考えなくても済みます。
被害者自身が弁護士特約に加入されていない場合でも、配偶者、同居の親族、別居をしている未婚の子、被害者が未婚の場合には実家の両親、契約車両の搭乗者、所有者が加入している場合には、弁護士特約を利用できる可能性が高いので、利用できるかどうか、保険会社に問い合わせて確認をした方がいいでしょう。
弁護士特約が利用できない場合は、弁護士を入れた場合に弁護士に支払う報酬と、弁護士を入れたことで増加する額について、それぞれ比較したうえで、弁護士を入れるべきかどうかを決める必要があります。弁護士を入れた方がいいのかどうかについては、とりあえず弁護士に相談をしてみることで、ある程度、見当が付きます。
最近は、無料相談をする事務所も増えてきました。当事務所では、人身事故については初回無料で相談をお聞きしています。法律相談のコストも下がっていますので、複数の弁護士事務所で相談をしてみるというのも手です。
示談交渉はいつからスタートするのか(早い解決が望めるか)
紛争はできるだけ早く解決したいのが人情です。しかし、人身事故の場合、交渉がスタートするのは、通常、症状が固定してからです。症状固定とは、これ以上治療を続けても、症状の改善が見られない状態のことです。
身体が完治せずに症状が残った場合には、症状固定後、さらに後遺障害等級の認定を申請します。
弁護士が入る前に、すでに保険会社を通じて後遺障害等級の申請をしていた場合でも、症状が残っているのに後遺障害に該当しないと認定されていたり、認定の等級が不当に低いと思われる場合には、被害者請求あるいは異議申立ての手続きをして、認定結果を争います。
症状固定後に交渉をスタートさせるのは、症状が固定しないと、通院慰謝料や医療費の請求額が確定しないためです。また、後遺障害が残ったことにより発生する慰謝料や逸失利益については、後遺障害認定後でなければ、請求額が確定しません。
したがって、通院が長引いている場合や後遺障害が認められる可能性が高い場合には、交渉のスタートが遅れがちになります。
しかし、示談というものはいったんしてしまうと、後で追加の請求をすることは不可能、あるいは、極めて難しくなってしまいます。したがって、損害額が決まらないうちに示談を進めることはできないのです(物損だけ先に示談をすることはありますが)。
被った損害を漏らすことなく請求するためには、やむを得ないところです。
交渉が完了するまで賠償金は一切入らないのか
示談交渉の相手は、相手方が加入する任意保険会社です。示談交渉が終わるまでは、賠償金は支払われません。
もっとも、人身事故の場合には、示談交渉が終わっていなくても、任意保険の他に、自賠責(強制保険)を請求することも可能です。ただし、自賠責によって支払われる賠償額は、一般的には任意保険よりは低額です。
したがって、まずは自賠責を請求してある程度のまとまった金額の支払いを受けた後に、自賠責ではカバーしきれない損害について、任意保険会社に追加で請求するという方法をとることもあります。
後遺障害等級の認定についても、任意保険会社を通さずに、直接、自賠責保険会社に書類を送って手続きをしてしまうのです。
後遺障害等級が認定されると、任意保険会社との間で示談交渉がまとまる前でも、後遺障害についての損害賠償の支払いを受けられます。
もっとも、この方法にはデメリットもあります。
任意保険会社をスルーして自賠責保険会社に対して被害者請求の手続きを取ると、任意保険会社の姿勢が変化することがあります。
それまでは、こちらと交渉をする姿勢を見せていた任意保険会社が、自賠責の手続きをしたことにより、争う姿勢に変わることがあります。
したがって、自賠責への手続きを検討する場合には、任意保険会社の態度が硬化する可能性についても考慮に入れなくてはいけません。
示談交渉が難航した場合、いつ訴訟に移行するのか
交渉をしても相手方との歩み寄りが難しいと考えられるような場合、訴訟を視野に入れます。問題は、どのタイミングで訴訟に移行するのかです。歩み寄りができそうかどうかは、相手方保険会社の担当者とある程度やり取りをする中で、徐々に見えてきます。
白状しますと、弁護士になって間もないころの私は、示談交渉は早々に切り上げて、すぐに訴訟に移行することが多かったです。極端な場合、相手との示談交渉抜きで、いきなり訴訟ということもありました。
訴訟は手間がかかりますが、示談交渉よりも賠償金の増額が見込めるケースが多くと、訴訟をしても、提訴から1年以内に解決できることが多いのです。
もっとも、やはり訴訟よりは示談交渉による解決の方が早く、依頼者の心理的負担が少ないことには変わりありません。
依頼者によって、求めているものがだいぶ違うのです。
依頼者が、相手方の不誠実や不正義に大変憤っているような場合には、早々に訴訟を提起する一方、依頼者が早い解決を望んでいるような場合は、示談交渉でどこまでできるのかをしっかり粘るようになりました。
特に、相手方保険会社により提示された内容が訴訟により見込まれる結果と大きくかけ離れていない場合や、あるいは、粘り強く交渉すればお互いが歩み寄れる余地がある場合については、依頼者の意向に沿うように心がけながら、着地点を探すという姿勢も大事であると考えます。
交通事故の訴訟については以下のリンクをご覧ください。
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