自動車に歩行者が跳ね飛ばされた場合の自動車のスピードは?
1.フロントガラスのヒビで衝突速度がわかる?
歩行者が自動車に跳ね飛ばされたとします。被害者は意識を失って救急搬送されましたが、被害者には、交通事故の時の記憶はありません。
加害者は、「そんなにスピードは出していませんでした。せいぜい、40キロぐらいです。」と言っています。本当でしょうか?
歩行者をはねた時の自動車のスピードを推定するための手段がいくつかありますが、いちばん簡単な方法を紹介します。フロントガラスの状態を見る方法です。
人が自動車にはねられると、バンパーが下半身に衝突し、横倒しのまま上半身がボンネットに乗り上げ、頭部がボンネットに衝突します。
自動車のフロントガラスの状態を見れば、自動車のスピードについておおよその見当がつきます。
フロントガラスが
「ひび割れている」場合、自動車の速度は時速40~50キロメートル
「蜘蛛の巣状に割れ、ガラスがくぼんでいる」場合、時速50~60キロメートル
「蜘蛛の巣状に割れ、ガラスの陥没がある」場合、時速60キロメートル以上
と推定されます。
これらは、経験則として知られています(富松茂大「自動車事故の過失認定」立花書房167頁)。
なお、被害者が歩行者ではなく、バイクの乗員だった場合、自動車の速度がもっと低い場合でも、自動車のフロントガラスが蜘蛛の巣状に割れることが知られています。二輪のライダーは足が地面から離れており、重心の位置も高いので、低い速度でも頭部を激しくフロントガラスにぶつけるからです。
2.記憶はあてにならない
私が被害者側の代理人となった事件で、歩行者(被害者)が横断歩道で自動車にはねられたというものがありました。
被害者の頭部が衝突して加害自動車のフロントガラスは蜘蛛の巣状に陥没しました。
衝突の瞬間に被害者の髪の毛が大量にびっちりとガラスのひびに食い込みました。
次の瞬間、被害者は遠くに跳ね飛ばされますから、フロントガラスに食い込んだ髪の毛は頭部から引きちぎられました。
以上の状況から見れば、加害自動車は、おそらく時速60キロメートル以上出ていたと思われます。
加害者は誠実な人で、自分の前方不注視を素直に認め、被害者に対しても真摯な謝罪を繰り返していました。責任を感じ、勤め先には退職を申し出ていました。しかし、そんな誠実な人でも、警察の取り調べでは、自分が運転する自動車のスピードを時速40キロ程度と供述していました。とても嘘をつくような人には思えませんでした。しかし、人間の記憶はとてもあいまいです。悪気はなくても、どうしても自分に有利なように記憶を都合よく作り変えてしまうのです。
3.歩行者が飛ばされた距離からも衝突時の自動車の速度がわかる
このほかにも、ダミーを使った実験で、以下の公式が成り立つことがわかっています。
(公式)
自動車の速度=(10×歩行者が飛ばされた距離)の平方根
なお、自動車の速度は、秒速m/sです。飛ばされた距離はmです。
歩行者が大人ではなく、子供の場合、次の公式を使います。
(歩行者が子供の場合の公式)
自動車の速度=(7.5×歩行者が飛ばされた距離)の平方根
(具体例)
例えば、大人の歩行者が自動車に9mはね飛ばされた場合には、自動車の速度は90(=10×9)の平方根になります。
平方根を求めるには、iPhoneを横にして、電卓アプリを開き、「90」と入れた後に、下のボタンを押します(androidの方は、申し訳ありませんがご自分で関数電卓のアプリを探してみてください)。約9.49m/sになりますね。
9.49m/sの単位は「秒速メートル」です。「秒速メートル」を「時速キロメートル(km/h)」に直すためには、3.6を掛けます。
9.49×3.6=約34.2
したがって、自動車の速度は、時速34.2キロメートル出ていたことになります。
なお、高校物理が少しわかる人は、水平投射の公式を使って求めることもできます。(以下は、何を言っているのかわからない人は無視してください)
重心の高さ(歩行者の身長の半分の高さ)と歩行者が衝突地点から跳ね飛ばされて停止するまでの 距離が分かれば、重心の高さから垂直に落下して地面に到達するまでの時間を求め、歩行者が飛翔 した距離をその時間で割れば、投射された速度=自動車の速度を求めることができます。
こちらの記事もご参照ください。
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