1.早期にMRIを撮っていることが望ましい
交通事故によってびまん性軸索損傷が起き、高次脳機能障害が残った場合、後遺障害等級を獲得するためには、画像所見による立証が有用です。
しかし、神経線維には血液が流れていないので、神経線維が切断されてもCTでは確認できない場合があります。MRIで事故後に速やかに撮影をすれば、脳内の点状出血を確認でき、びまん性軸索損傷を推定できる場合がありますが、医療機関では事故直後にはMRIでの撮影を行わない場合が多いのです。
そこで、他の手段を考えます。
2.脳室が拡大しているかどうかを確認する
有用な方法として、事故から数か月経過したのちに、MRI撮影をして脳室が拡大しているかを確認するというものです。
脳内で神経線維の切断があると、切断された神経線維は断片化され、脳内の他の細胞により吸収されます。これをワーラー変性と呼びます。ワーラー変性によって、脳内にぎゅうぎゅうにつまった神経線維が減るのですから、脳全体がやせて体積が減ります。脳が痩せるのですから、脳の表面のしわが深くなり、隙間が広がります。そして、脳の中にはもともと、脳室と呼ばれる脳髄液で満たされた空洞部分があるのですが、脳が痩せることで、脳室が大きくなります。
これを脳室拡大といいます。
事故から例えば3か月経過して撮影したMRIの画像を、事故当日に撮ったCTと比べてみるのです。MRIの画像に映った脳室が、CTに映った脳室と比べて拡大していれば、脳室の拡大が確認できる場合があります。
本当は、事故に遭う前に撮影した脳のCTやMRIの画像があれば一番いいですが、普通はそんなものはありません。そこで、事故前の脳の画像の代わりに、事故当日に撮影されたCT画像を使うのです。事故当日なら、まだ、脳室の拡大が起きていないと考えられるからです。
3.相手方から反論されやすいポイント
ただ、この方法も万能ではありません。
脳室がものすごく拡大していれば分かりやすいですが、脳室拡大の幅が小さい場合には、拡大しているのかどうかわかりにくいのです。
CTやMRIは脳をスライスして撮影するのですが、スライスする高さによって、脳室の大きさが微妙に変わります。本当に脳室が拡大したのか、あるいは、CTとMRIの撮影時のスライスの高さの違いによって拡大したように見えるのか、素人目には判断に苦しむことが多いです。
また、加害者側からは、次のような反論がなされる場合があります。
「事故直後のCTの脳室は小さく見えるのは、事故の衝撃で脳全体が腫れているからだ。事故から3か月経って撮影されたMRIで脳室が拡大しているように見えるのは、3か月経って脳の腫れがひいただけだ。脳室は元の大きさに戻っただけで、拡大などしていない。」
この点については、大きな血種が生じていない限り、事故当日の脳画像で事故前の脳室サイズの代用になると指摘する文献(「交通事故で多発する”脳外傷による高次脳機能障害”とは」増澤秀明著 70ページ)があります。
したがって、事故当日のCT画像に血種等がないのに脳室が小さい場合には、CT画像を代用して、脳室の拡大を主張すべきでしょう。
4.具体例
なお、脳室が拡大したかどうかを確認するために主治医に面談することがあります。
そういったケースで、「事故当日のCTの画像では脳室が小さく、数か月後に撮ったMRIでは脳室が大きく見えます。脳室が拡大しているのではないでしょうか?」と質問すると、主治医は、「血種や脳挫傷が生じており、脳全体が腫れている。しわも見えないでしょう?事故当日のCT画像で脳室が小さく見えるのは、脳全体が腫れているからですよ。ただ、脳がこれだけ腫れているということは、それだけ脳がダメージを受けたことを示しているのだから、裁判でもそのように主張すればいいのではないでしょうか?」といった回答をしてくださったりします。
参考になります。
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