１．頭部の打撃と脳挫傷

脳は脳脊髄液が満たされた頭がい骨内でぷかぷかと浮いています。ボクシング漫画などを読まれる方は聞いたことがあるかもしれませんが、頭部に衝撃があった場合、頭がい骨の動きと脳の動きにずれが生じます。その結果、脳が頭がい骨の内部で衝突を起こし、脳挫傷が起こります。脳挫傷というのは、脳の組織の一部がグチャっとつぶれる状態です。

よく使われるたとえ話ですが、容器の中に水に浮かんだ豆腐が入っている場合、容器を激しく動かすと、豆腐の外側がお容器の内側にぶつかり崩れてしまいます。それと同じイメージです。

脳挫傷が生じると、必ずというわけではありませんが、脳の一部が壊れたことによる症状、すなわち、局所症状が起こります。失語症や麻痺、視覚障害などの症状が代表的です。

２．脳挫傷が生じやすい箇所

交通事故では、特に前頭葉や側頭葉の底部に脳挫傷が生じやすいと言われています。

前頭葉や側頭部の底部が接する頭がい骨の内部（頭蓋底）がデコボコで不揃いなため、脳に衝撃を受けると、前頭葉や側頭部が頭蓋底にぶつかり、壊れやすいのです。

頭蓋底というのは、平たく言うと、頭がい骨内の脳を収納するスペースの底の部分のことです。脳の底部が頭蓋底に接しています。

前頭部に打撃があった場合、頭がい骨は後ろに向かって動くのに脳はそのままの位置にとどまります。頭がい骨から見れば、脳が打撃の方向の反対側に向かって加速してくるというイメージです。脳を頭がい骨に向かって加速させているように見える力を慣性力といいます。そのため、前頭葉や側頭葉が頭がい骨にぶつかり、損傷します。車が急加速した時に、車は動くけれども車の乗員が車の動きについていけないため、結果として、車のシートに乗員の背中が押し付けられるのと同じ理屈です。

では、後頭部に衝撃があった場合はどうなるでしょうか。実は、この場合にも、前頭葉や側頭葉の底部が損傷しやすいのです。後頭部に衝撃があった場合も、前頭部に衝撃があった場合と同じ個所が損傷しやすいのは不思議に感じますね。

後頭部に衝撃があると、耳の下あたりを中心に脳が頭がい骨内部で回転し、前頭葉の底部や側頭葉の前部などが頭蓋底にぶつかります。

３．前頭葉症状

前頭葉の底部に脳挫傷が起こると、いわゆる前頭葉症状が起こり得ます。

４．側頭葉症状

代表的な側頭葉症状は記憶障害です。

５．びまん性軸索損傷による高次脳機能障害

以上、脳の組織が壊れる脳挫傷の症状について述べてきました。もっとも、脳挫傷の他に、脳内の神経細胞が広範囲にわたって損傷を受けるびまん性軸索損傷によっても、上記の前頭葉や側頭葉の症状が出やすいのです。脳挫傷の場合とは異なりびまん性軸索損傷の場合には、CTなどの画像で脳の損傷を確認できない場合があります。