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一時停止の標示はあるが標識がない場合の
過失割合について

1.交差点での事故の過失割合(基本)

この記事では、交差点における交通事故(出会い頭の衝突事故)の過失割合についてお話しします。

まずは、図1のような、一時停止の規制がない交差点での交通事故の場合について見てみましょう。

緑の車と黒の車の基本過失割合は、40:60となります(数字が大きいほど、過失=落度が大きくなります)。

ここで、50:50とならない理由は、左方優先の原則があるため、黒い車から見て左方を走行してきた緑の車が優先されるからです。

 

2.一時停止の規制がある交差点(一時停止の標識アリ)

では、図2のような、一時停止規制のある交差点の場合はどうなるでしょう。

緑の車と黒の車の基本過失割合が、20:80となります。

一時停止規制がある道路から入った車は、不利に扱われるのです。

 

3.一時停止の標示はあるが標識がない交差点

では、図3のように、「止まれ」の標示はあるが標識がない交差点での交通事故の過失割合はどうなるのでしょうか。

直観的に考えれば、道路に「止まれ」という標示があるのだから、標識がなくても、図2と同じように扱うべきと考えられます。

しかし、下記の記事でも書きましたが、図2とは違って図3の場合には道路交通法上は、一時停止義務はありません。そうなると、図1と同じ扱いになるようにも思えます。

 

判例を見てみましょう。

東京地裁平成20年11月26日判決は、

被告は、本件交差点前の『止まれ』の標示を無視したことを原告の不利益に斟酌すべきである旨主張するが、道路交通法上の規制ではない『止まれ』の標示を・・・不利益に斟酌するのも相当ではない。

と述べています。

判決文なので文章が固くてわかりにくいですが、要するに、「標示の無視は法律違反ではないから、過失相殺の時に不利に扱うのはおかしい」と言っています。

 

この考え方に従えば、図3は図1と同じ扱いになります。       

        実はこの裁判例は、直進自転車と右折自動車の衝突事故についての裁判例です。

        しかし、理屈自体は、出会い頭の衝突事故の場合にも妥当するはずです。

 

 

もう一つの裁判例を見ます。

東京地裁平成17年2月23日判決です。

 

原付が「止まれ」の路面のペイントを無視し突っ込んできたため、交差点内で自動車と出会い頭で衝突したという事案です。

この裁判例では、わざわざ道路管理者が「止まれ」標示を路面にしていることを根拠に、交差点手前で停止も減速もせずに侵入した原付に過失を認めています。

 

本件単車が走行していた東西道路の交差点手前にある「止マレ」標示等は,道路管理者・・・が施したものであり,公安委員会による一時停止の交通規制ではない。しかしながら,そもそも道路管理者・・・がこのように白ペイントにより「止マレ」標示等を交差点手前の路面にしたのは,交差点の見通し・・・が悪いので,同方向から進行してくる車両の有無等安全確認を十分に行う必要があることの注意を喚起するためであったと認められる・・・。このような事故現場の見通し状況及び「止マレ」標示等が施された意図からすると,交差点手前で停止又は減速することなく同交差点に進入したことについては,亡Eの過失として考慮するのが相当である。

 

この裁判例の見解に従うと、図3のケースは図2のケースと同じ扱いになりそうです。

ただ、この裁判の事案はやや特殊です。「止まれ」に従わずに交差点に進入した原付には、制限速度を10~15キロオーバーした違反があります。その割には、判決で示された原付の過失割合は結論としてはそれほど大きくなっていないのです。

そう考えると、この裁判例においても、図3を図2と全く同じ扱いにしているというわけではなさそうです。むしろ、図1の場合に近い扱いをしているように読めます。

 

もっとも、過失割合を定める場合に、裁判官は必ずマニュアル通りにしなければいけないわけでもありません。裁判官によって判断は変わる可能性があります。

図1と同じように扱われる場合もあれば、「止まれ」の側を走行していた側を、事情によっては、図1よりもやや不利に扱う場合もありそうです。

 

こちらの記事もご参照ください。

示談交渉や訴訟になった場合の流れについては以下を参照ください。

 

 

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