人身事故での示談の内容の妥当性を確認する方法全般については、下記の記事以降で説明をしています。
本記事は、主婦(主夫)の休業損害について説明します。
示談をするにあたっては、主として、次の4つがちゃんと評価されているのかを確認する必要があります。
主婦(主夫)などの家事従事者の場合でも、休業損害を請求できます。
交通事故の怪我で家事ができなかったような場合、サラリーマンが勤務先を休んで仕事ができなかった場合と同じように、経済的な損失が発生すると考えることができるからです。
しかし、サラリーマンの場合にはない難しさがあります。家事従事者の場合、特に「休業損害」を決めるのが難しいのです。
休業損害については、下記の計算式で計算します。
【計算式1】
1日当たりの基礎収入額×休業日数=休業損害
サラリーマンの場合、給与が決まっていますし、出欠について記録を取っています。したがって、勤務先の人事担当者に休業損害証明書を書いてもらえば、1日当たりの基礎収入も休業日数もはっきりさせることができます。
家事従事者の場合はどうでしょうか。
家事従事者は家事労働の対価として、決まった給与をもらっているわけではありません。また、どの日に家事をしたのかについて、記録をとっていないのが普通です。
したがって、1日あたりの基礎収入の額(家事労働の日当)についても、休業日数(事故のダメージで家事ができなかった日数)についても、サラリーマンのようにはっきりとしないのです。
したがって、主婦(主夫)の休業損害額を決める場合には、サラリーマンの場合とは違った工夫が必要になります。
以下では、「1日当たりの基礎収入の額の定め方」、「休業日数の定め方」という順番で説明します。
1日当たりの基礎収入額(家事の日当)については、賃金センサスという厚生労働省の調査に基づくデータを用いて計算することができます。いわゆる女性労働者の平均賃金です。家事労働で使う賃金センサスは377万8200円です(平成29年のデータ)。
【計算式2】
1日当たりの基礎収入額=賃金センサス÷365(日)
377万8200円を365で割ると、1万0351円となります。これを1日当たりの基礎収入(家事労働の日当)と考えます。
このように1日当たりの基礎収入額は賃金センサスを用いれば計算できるのですが、休業日数を決めるのはもっとやっかいです。
被害者がサラリーマンの場合にはタイムカードや出勤簿などで出欠を記録しますから、交通事故で何日仕事ができなかったのかは明白です。
しかし、「家事従事者が何日間家事ができなかったのか?」の判断については非常に曖昧です。
「布団に寝込んでしまって寝返りを打つことも困難だった」ような日については、まるまる一日家事労働を休業したと考えることができるでしょう。
逆に、体の状態がよくて家事に何の支障もなかったような日については、家事労働の休業損害を要求することはできません。
では、家事が全くできなかったわけではないが、完全にできたわけではないような日についてはどうでしょうか。
例えば、半分程度しか家事ができなかったような日については「0.5日の休業」、ある程度家事ができたが一部、手伝ってもらったような日は「0.2日の休業」、一部の家事をするのが精いっぱいで多くの家事を手伝ってもらったような場合には「0.8日休業」といった形で、家事ができなかった程度について反映させたうえで休業日数をカウントする方法が考えられます。
しかし、事故の直後から治療が終了するまでの間、家庭内で毎日、家事がどの程度できたのかを具体的に記録する人は殆どいないでしょう。そこで、病院からカルテや看護記録などを開示してもらい、記載された症状をもとに「どの時期に家事にどの程度支障が出たのか」を判断することになります。
ただ、実際には、もうすこし簡明な方法がとられることも多いです。
交通事故発生日から治療終了までの期間を例えば4つの区間に分けて、事故から間もない区間については「100%家事ができなかった」と考え、事故から日数が経過するごとに、「この区間は75%家事ができなかった」「この区間は50%」「この区間は25%」と、家事への支障の割合を段階的に減らして計算していく方法です。
もっと機械的に判断してしまう考え方もあります。具体的には、「通院日数=家事ができなかった日数」と考えます。
客観的で判断が容易なので、このような方法がとられることもあります。
ただ、常に妥当な結論になるというわけではありません。というのは、全く同じ症状でも、通院頻度は人によって異なるからです。病院への通院のしやすさ、主治医の方針も通院回数に影響を与えます。頻繁に病院にいく人もいれば、通院時に多めに薬を出してもらい通院頻度は少ない人もいます。
したがって、通院期間が長い割には通院回数が少ないような場合には、この考え方を取ると、休業損害額がだいぶ少なく見積もられてしまうことになります。
逆に、通院回数が多い場合、例えば、症状が比較的良い日も含めてほぼ毎日通院していたような場合には、休業損害額が増えることになります。したがって、被害者の方から「通院日数=家事ができなかった日」と考えて示談内容を提案しても、保険会社の方が応じないことが多いでしょう。
以上、主婦(主夫)の休業損害額の出し方について説明してきました。
通院慰謝料や通院交通費、治療費については、以下のリンクから始まる一連の記事をご参照ください。
なお、家事従事者の休業損害が問題になるような場合には、弁護士に相談することをお勧めします。
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