弁護士になりたての頃の私は、交通事故の基本的な処理手順ですらあやふやでした。
そんな私でも、交通事故相談の経験を積み、ベテランの弁護士の指導を受けながら交通事故事件を担当するうちに、徐々に自信がついてきました。
そんなとき、事務所のボス(所長弁護士)から大目玉を食らいました。
ボスの前で、「交通事故については、一通りのことはできるようになった気がします。」とふと漏らしました。
その一言が、ボスの逆鱗に触れたのです。
「交通事故を舐めるな!」と激しいお叱りを受けました。
ボスからは常日頃から厳しく指導されており、叱られることには慣れていました。
しかし、そこを割り引いても、いつものボスの叱り方とはちがっていました。
交通事故には便利なマニュアル本があります。
交通事故で生じた損害をどのように金銭的に評価すればいいのかについては、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」という本が出ています。
表紙が赤いので、交通事故を取り扱う実務家の間では、「赤い本」と言われています。
また、過失割合については、「別冊判例タイムズ 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」という本があります。
こういったマニュアル本があるため、経験の浅い弁護士でも、何をしていいのか全く分からないということはないのです。
しかし、そこには落とし穴があります。
本来、事件一つ一つには個性があります。
事件ごとに、注意をしなければいけない固有の事情があります。
マニュアル思考に陥ると、そういった固有の事情をおろそかにしてしまう恐れがあります。
極端になると、マニュアルに従ったお手軽で定型的な大量処理をしてしまえばいいという誘惑にかられます。
そういった仕事の仕方を、皮肉をたっぷり込めて訴訟工学などと揶揄されることもあります。
そういう仕事のやり方に慣れてしまったら、丁寧な仕事に戻れなくなります。
軽々に「交通事故については、一通りのことはできるようになった気がします。」と言った私。
ガツンと言っておかなければ取り返しがつかなくなるという思いで、ボスは「舐めるな!」と私に一喝したのです。
今でもボスには感謝しています。
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