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弁護士扇の長すぎる挨拶 その11

同期の弁護士からこんな話を聞かされました。

 

「交通事故事件で、物理法則に基づいて数式を入れて書面を書いても、裁判官は理解する気がない。ちゃんと読んでくれない。」

 

「結局、肩書のある専門家に高い報酬を支払って、鑑定書を書いてもらうしかない。」

 

「この鑑定書、中身は分からないけど、有名大学の工学部の教授が作成したからきっと正しいのだろう。一方、弁護士の書いた書面は、正しいかどうかわからない。偉い専門家の先生に書き直してもらい出直して欲しい。それが裁判官の本音。」

 

そんな馬鹿な!と思いました。

 

物理の法則は普遍であり、偉い工学博士が言ったから正しいとか、文系の弁護士が言ったから間違いになるというわけではありません。

 

 

しかし、実際に、物理の知識に基づく書面を作成、提出して、同期の弁護士が言っていたことがわかりました。

 

裁判官に理解してもらえないのです。

 

こちらの出した書面について、「なんだか、数式がたくさん書いてあるんですけど、これって正しいんですか?」と、相手方の弁護士に尋ねる始末です。

 

相手方弁護士がたまたま理科系の大学院を出ていたので、「数式や物理的な考察自体に誤りはないと思います。」と回答してもらって事なきを得ましたが、頭を抱えそうになりました。

 

 

 

やはり、裁判官も大半は文系なのです。

 

 

物理を勉強しているとは限らないのです。

 

 

この点について、理科系の大学出身のベテランのT弁護士から教えていただく機会がありました。

 

弁護士というものは、若いうちはひたすら勉強をしてスキルアップを図ります。

しかし、ベテランになるにしたがって座学的な勉強量は減り、経験や人間力に頼るようになります。

若いうちから勉強をせずに人間力だけで勝負しようとするしょうもない弁護士もいますが、ベテランになっても若手以上に熱心に勉強をするすごい弁護士もいます。

 

T弁護士はベテランになったのちも研鑽を重ねる勉強家でした。そのT弁護士から言われました。

 

「理科系の知識を盛り込んでも、とにかく裁判官が理解をしようとしない。腹がたった。若い頃は、裁判官はバカじゃないのかと考えていた。しかし、今は、違う考え方をしている。理解してもらえない文章しか書けない自分がバカだったのだと。」

結局、バカなのは裁判官ではなく、理解してもらえる文章が書けない私自身だったのです。

 

そのときから、分かりやすくする工夫が必要だと自覚するようになりました。

 

文章での説明を加える、数式の背後にある考え方にも触れる、基本的な法則については別の書面で丁寧に説明をする、図や写真を入れて一目でわかるようにする、などなど。

 

核心的な争点については、弁護士が1時間多く手間をかけることで裁判官が悩む時間を1分でも減らせるのであれば、迷わずに手間をかけました。

 

 

そういう姿勢で書面を作成し、挽回に努めました。

 

数式だらけの書面に困惑していた裁判官から、後日、和解案が出ました。

 

物理法則を基にした主張も含め、概ね、こちらの主張が反映された内容でした。

 
 
 

 

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