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弁護士扇の長すぎる挨拶 その10

実際に物理や工学の知識についてまで勉強している弁護士は、医学的な知識の場合以上に少ないです。

 

医学的な知識については、その都度文献で調べたり、医師に面談して教えてもらって得た断片的な知識で何とかなる場合もあります。

 

しかし、物理については高校物理程度の知識であっても腰を据えて時間をとって勉強する必要があります。

 

そのため、多くの弁護士は手が回っていないのが実情です。

 

例えば、ブレーキ痕から自動車の速度を推定する場合にも、物理の知識に基づいて自分の頭と手を使って計算をするのではなく、ブレーキ痕から速度を推定する便利な早見表の類いや、実務家向けの自動計算してくれるウェブサイトを使って、お茶を濁す弁護士が多いのです。

 

そういったツールは便利ですが、道路に傾斜があり少し傾いていた場合など、ちょっと状況が複雑になると応用が利かず、手詰まりになります。

自分で手と頭を使ってゴリゴリやっていくうちに、重要なことが見えてくる場合も、時々はあります。

 

 

交通裁判でも鑑定人として活躍した江守一氏も著作、「交通事故の科学」のあとがきで、物理学の苦手な法律家ももう少し勉強しても良いのではないかと苦言を呈しています。

 

どこまでの知識が必要なのかを調べたところ、「交通事故解析の基礎と応用」 という書籍に、交通事故鑑定で用いる物理や数学はほとんど高校で教わるとの記述がありました。

 

また、交通事故の刑事弁護で著名な先生の書籍の中では、高校の物理の先生を呼んで法廷で証言してもらったとの話がありました。

 

高校物理の勉強ならなんとかなりそうです。

 

 

そこで、高校物理の勉強も始めました。

 

交通事故事件の処理で一番役に立つのは力学という分野です。

 

物理の得意な学生とセンター試験の点数を競い合うわけではないので電磁気、波動、熱力学、原子物理などはカットできます。

 

高校物理の力学の中でも最も難しい単振動についてもやらなくてもよいでしょう。

 

ただし、高校物理の範囲は超えますが角運動量保存則については勉強した方がよさそうです。バリア衝突速度の計算なんてものも必要になります。

 

検討の結果、トータルでは物理を使う大学受験生よりは勉強量が少なくて済むことがわかりました。

なんとかなりそうです。

 

 

本来の私はド文系の人間です。

 

それでも、徐々に理解が進むと、勉強の成果を裁判に生かせそうという自信が湧いてきました。

 

 

しかし、ここでも落とし穴がありました。

 
 

 

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